身 辺 雑 記

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片桐大之

初夏の頃にパリの地に降り立った私ですが、早くも日照時間が短い寒い季節を迎えました。今なお悪戦苦闘している毎日ですが、多少、慣れてきたように思います。 これまでの歳月を振り返ってみて日本とフランスとの生活の中で一番違和感を覚えたのは、研究生活における時間の流れです。日本にいた時は、ほとんどの夕食を前の職場である理化学研究所内の食堂で取り、その後も仕事をしていました。しかし現在は、パスツール研究所内の食堂が夕食時には営業していないこともあり、帰ってから自炊をして食事をとるというライフスタイルです。今なお見たことのない、様々なおいしいお料理が出てくるパスツール研究所の食堂でお昼御飯をすませ、そしてまた帰宅するまで一所懸命に研究をする、日本で過ごしていた時よりもより集中した研究生活を送っているかもしれません。

 研究室内でのコミュニケーションは、これは各研究室内のメンバーによって大きく左右されると思いますが、私はなんとかうまくやれていると思っています。実際、フランスに来てから困難であると思っていた銀行口座の開設も、研究室内の同僚の助けを得て難なくやることができました。また研究室内での仕事は英語を使っているのでいいのですが、問題は日常会話です。当たり前なのですがフランス語なのです。国際的に有名な研究所であるパスツール研究所ですが、フランス語のみのアナウンスが多々あり、私の思っていた以上に英語によるアナウンスが少ないのが現状です。残念ながら私はフランス語が全くできず、その為に幾度となく同僚達との日常会話に入っていくことができないことがあり悔しい思いをしています。

 フランスでは外国人が3ヶ月以上滞在するには滞在許可書なるものが必要なのですが、私は渡仏前からこの許可書の取得には警察署に行ってフランス語で直接交渉しなければならず、うまくいかないことがあるということをきいておりました。そこでパリに到着してからまず初めに、研究室内の同僚、研究所内に働いている日本人の方などに、この許可書の取得に関してどのように対処すればいいかを色々尋ねました。しかし、あわてなくても研究所内の係りの指示通 りにすればいいというアドバイスを頂いたので、指示に従うことにしました。確かに、取得に関する必要書類、手続きは思っていたほど困難なことは経験しませんでしたが、最終的に取得できたのは滞在有効期限まであと3日といった日で、指示の連絡がくるまでの日々は不安でした。自分がフランス語でコミュニケーションをとることが出来れば、このような不安は皆無だったかもしれません。

 パスツール研究所内にいる人達、いや、フランスでの生活にかかわっている人達は、日本人と違っていつも気軽に声をかけてくれます。この時、少しずつ学んでいるフランス語の表現を日常会話に取り入れることで、より一層ニコっと微笑みかけてくれます。本当に理解しあうには、フランス語を勉強することの大切さを改めて身にしみている今日この頃です。