第3回

今まで堅い記事が多かったと思うので、今回は私のラボで行ったレクリエーションについて書きたいと思います。 次回からはパスツール研究所で活躍なさっている他の先生方にバトンタッチさせて頂きたいと思いますので、もうしばらくだけお付き合いください。

さて、年明けにパリの小児科診療を担うネッカー病院の小児循環器病棟で子供たちと大切な時間を共有してきました。

そもそも、何故この企画が持ち上がったかというと、私達Imagine-Pasteur Hear Morphogenesis groupは、ラボのクリスマスのイベントとして、豪華なお食事等を自分たちだけで楽しむよりも、皆で何か分け合えることがしたいと思い、心臓の研究の専門家である私達は、循環器疾患で苦しむ子たちに心臓の事をもっと知ってもらえないか、と考えたのです。

ラボヘッドのシゴレーヌがネッカー病院側と綿密に調整して下さり、私達はそれぞれ、自分達が子供達に提供できることを考えました。 私は研修医時代に小児科をローテートして以来、直接診療等で入院している子供に関わる機会はあまりありませんでしたが、当時印象的だったのは、年齢や知識に関係なくただひたむきに病気と闘って生きようとする子供達、そして医師から病名を告げられ面談で涙を流す方もいらっしゃいましたが、子供の前では気丈に振る舞い懸命に彼等を支えるご家族の姿です。

そこで、私は、せっかくなので、日本の文化と絡めて何かできれば、発達過渡期を入院して過ごさなければならない子供達の刺激になり、毎日いらっしゃっているご家族も含めて皆で楽しめる場を作れるのではないかと考え、折り紙でハート(心臓)の作り方を教えることにしました。 シゴレーヌは様々な種類の生物の心臓のカードでクイズを作り、生物の進化と心臓の発生の説明を、ポスドクのジャンフランソワは心臓の迷路やお絵かきを、同じくポスドクのオードレーは苺やバナナからDNAを抽出する実験を、テクニシャンのローランはセントラルドグマの仕組みのクイズを、博士課程の学生トマソとダニエルは其々、粘土で心臓の模型作りとパズルを準備し、病棟組と外来組に分かれ、ブースを設けました。

私は病棟に上がり、子供達、そしてご家族に次々と折り紙を教えました。あるご家族の方に、「毎日同じような日々の繰り返しだったから、来てくれて本当にありがとう」とおっしゃって頂き、「日本では鶴を千羽折って病気の快復を祈る文化があるのよ」と申し上げると、是非作り方を教えてほしいとおっしゃって頂いたので、鶴の折り方も教えました。 すると、「これからはこの子の隣で毎日鶴を折りながら過ごせて寂しくないわ」と手を握られ、本当にこのアクティビティに参加して良かったと思えたのでした。

また、反省する点もありました。ある子供の病室に行き、「一緒に折り紙を折らない?」というと「うん、前からやってみたかったの」と言われ、「じゃあ私と同じようにやってみて」と答えると「ちょっと自分で折るのは難しい、ごめんね」と言われました。 その子の手をみると経皮的酸素飽和度を計測する機械が取れないように巻き付けてあるし、点滴も両手に沢山入っていて、合計10本くらいの輸液ポンプが繋がっていました。 病名は告げられていませんでしたが、重症心不全であることは間違いなく、輸液で両手はふさがり、折り紙を折ることは物理的に不可能であり、そんな子供に私からそのような提案をしてしまいなんて循環器内科医として恥ずかしいのだろうと思いました。 「そうだね、私が二つ作るね、特別に鶴も作ってあげるね。」と言い、それらを渡すと「すごい!かわいい!ありがとう。元気になったら今度は自分で折るからまた教えにきてくれる?」と言われた笑顔を私は一生忘れることはないでしょう。 「絶対来るよ。」と言い残して病室を後にしました。

中にはフランス語も英語も話せない子もいて、全く言語も分からない中、ただひたすら病気と闘うために入院していなくてはいけないなんて、さぞかし辛いだろうと思いましたが、幸い折り紙は言葉が通じなくても一緒にできるので、最後は彼女の満面の笑みを見る事ができました。

他のラボのメンバーも大活躍し、患者さん、ご家族、そして医療スタッフからも多く感謝して頂き、そして何よりも、私達にとって大きな糧となりました。 私にとっては、医師として診療するだけでなく、このような関わり方によって救われる患者さんや家族も多くいるのだと知る貴重な機会にもなりました。

今回、大好評につき、今後も定期的に開催予定のようですのでまた機会があれば積極的に参加したいと思います。