![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
昨年の秋からパスツール研究所に来て、早半年になります。親日家の研究室メンバーに助けられながら、研究と日常生活ともに楽しく過ごしています。
到着してしばらくは各種の登録手続きに追われました。滞在許可証の申請は研究所が代行してくれたので、書類を揃えて提出すれば後は連絡がくるのを待つだけでした。しかし、最終的にメディカルチェックのアポイントメントをとり、滞在証が発行されるまで半年程度かかるようです。銀行口座は、ラボの同僚に通訳を頼み、研究所近くの銀行で開設しました。パスツールにはStapaというポスドクや学生を対象とした若手研究者コミュニティがあり、銀行と提携して口座維持費の免除などの優待が受けられます。Stapaは他にも金曜夜のビアーアワー、スキー旅行、映画鑑賞、学会の主催など活発に活動しているようです。健康保険は、私の場合EGIDEを通した加入になります。住居については、私も最初はパスツール研究所の寮に入りました。キッチン用品やベッド、机、インターネットなどが揃っており、新しい場所で生活をスタートさせるのに非常に助かりました。仮住まいのため本格的にアパートを探し始めましたが、要求される書類が雇用契約書、給与明細、納税書、保証人、アパート保険の加入証明書など複数あり、また手頃な物件は競争率が高かったりと思うように決まりませんでした。訪問日に行くと、建物前に長い行列ができていてあきらめたこともあります。秋はちょうど新学期が始まり、多くの人が物件を探すピーク期だったようです。アパート探しが難航する中、Cité Internationale Universitaire de Paris から空き部屋があるとの連絡を受け、入居を決めました。住んでみると、交通も便利で治安もよく、敷地内にカフェテリア、郵便局、銀行、シアター、芝生、グランド等があり生活しやすい環境です。急がない日は研究所までバスで通勤できるところも気に入っています。また、ハウス内では日曜の朝ご飯やニューイヤーパーティーなど各種の企画があり、様々な国や研究分野の留学生と交流する機会をもつことができます。
フランス語は、自己紹介ができる程度でこちらに来ました。研究室は私以外、全員がフランス人でフランス語でまわっています。皆英語を話せるので仕事上それほど困ることはありませんが、情報量は半減しますし、ランチの時など会話に入れず寂しい思いをすることもあります。また研究所の中でも、研究を支援してくれるスタッフはフランス語のみの方が多く、通訳をラボの人に頼むか、挨拶だけになってしまいます。研究所の外ではもちろんフランス語は必須で、下手でも最初はフランス語で話しかけるようにしています。内容が複雑になると、英語のできる方を探すことになりますが、少しでも現地の言葉を話すことで、相手の対応がずいぶん変わる印象を受けています。この1月からCité Universitaire の外国人研究者オフィス(BACE)が主催するフランス語コースに参加できることになり、2時間のクラスを週2日通っています。3ヶ月のコースですが、大変な競争率で募集がかかれば即時に応募しなければなりません。多くの方々と自由にコミュニケーションをとれるように、少しでも多くの表現を身につけたいと思っています。
Unité de Génétique fonctionnelle de la Sourisは2つの研究チームで構成されています。一つは感染症に対する感受性遺伝子の研究を、もう一つは幹細胞の自己複製や分化に関わる細胞分子機構の研究を行っています。ラボミーティングはチーム合同です。内容は主に研究の進捗報告か学会の出張報告ですが、投稿論文のレフリーのコメントをスライドに入れてメンバーの助言を仰ぐこともあり、初めてみるスタイルでした。私は感染症チームに属し、特にリフトバレー熱ウイルス (Rift Valley fever, RVF)に注目した研究に携わっています。RVFウイルスは、1931年にケニアのリフトバレーで初めて発見され、Phlebovirus属 Bunyaviridae科に属します。蚊を媒体とし、発生すると特に妊娠羊や妊娠牛に高確率で流産を引き起こすため家畜産業に大きな被害を与えます。人への感染性もあり、通常は無症状かインフルエンザ様の軽症状ですみますが、数パーセントの患者で眼疾患、髄膜脳炎、出血熱といった重篤症状が報告されています。こうした症状の重篤度の違いに、宿主の遺伝的素因が関わっていることが示唆されています。本研究では、RVFウイルスに高い感受性をもつマウスと低い感受性をもつマウスを用いて、遺伝子型や遺伝子発現パターンを解析し、RVFウイルス感染に対する免疫に関わる遺伝子の同定を目指しています。
冒頭にも書きましたが、研究室メンバーの中には日本のものが好きで、ランチをお弁当箱で持ってくる人やアニメに詳しい人、桜や椿を育てている学生さんもいます。また、パソコンのスクリーンセーバーを京都で撮影した桜のスライドショーにすると、エンジニアの方が実験中に手をとめて見とれていました。話題の大半もサイエンス以外は日仏の文化比較で、相違点を見つけてお互いに学びながら楽しんでいます。
最後になりましたが、この留学の機会を与えてくれたフランス政府と日本パスツール協会、そしていつも支えてくれる家族や先生方に深く感謝し、心より御礼申し上げます。