小松氏、 石野氏へのインタビュー

 

2005年に実施したフランス政府給費留学生パスツール奨学金で選考された小松旬さん、 石野智子さんは現在パスツール研究所(パリ)で研究活動を行っています。先日、パスツール研究所で実際にお二人に会い、お話を伺ってまいりましたので、ご紹介いたします。

インタビュー実施日:2006年10月22日(日)
場 所:パスツール研究所構内(パリ)

 

日本パスツール協会フランス政府によるフランス政府給費留学生パスツール奨学金
第1回奨学生 小松旬氏、 石野智子氏へのインタビュー

Q. パスツール奨学金を何で知ったか
小松:現在所属しているラボの責任者から前所属の教授に連絡があり、こういう奨学金があるので来てみないかと言われました。今の責任者のことは知っていたので非常にいい機会だと思いました。
石野:私も一緒ですね。研究のために行きたいというメールを出したら、こういう奨学金があるけどどうですかという返事がきました。

Q. パスツール奨学金に応募した理由
石野:自分の生活費を持ってきてほしいというのがボスの意向であり、自分の意向でもあるのでなんらかの奨学金をとりたかった。ちょうど目的にかなうと思い応募しました。
小松:私も同じです。

Q. パスツール研究所を選んだ理由
小松:一つはパスツール研究所の責任者から来てもいいといわれたこと、もう一つは名が通 っている研究所なのでそれなりの素晴らしい研究をしているに違いない、できるに違いないと思いパスツール研究所を選びました。
石野:共同研究している先がパスツール研究所にあり、寄生虫、特にマラリアの研究を盛んに行っているのでとても研究環境が優れていると思いこちらへきました。

Q. 奨学生応募の準備で何が大変だったか
石野:英語での作文だったと思いますが、若干大変でした。
小松:自分で作成する書類は大変ではなかった。でも、フランスから取り寄せなければいけない書類が応募前後にいくつかありその手続が面 倒でしたが、他の奨学金と大差はないと思います。

Q. 奨学生に合格してから日本を離れるまで
小松:最初に行ったことはフランス語の勉強を始めたことですね。フランスで生活しなければならないので、フランス語が話せないと困るので勉強をしました。それから、私は元々行っていた仕事とは内容がかなり変わっているので、新しい勉強も必要でした。それを前の仕事と折り合いをつけながらやらなければいけなかったので、なかなか面 倒な期間ではありました。
石野:私は前の仕事を終わらせるということがとても大変で、来るための準備をする時間はあまりなかった。 

Q. 渡仏の手続きで何が大変だったか
小松:様々な書類が必要で、フランスから取り寄せなければいけなかったり、日本語の書類をフランス語に翻訳しなければいけなかったり、ビザの申請も必要だったので、それが大変でした。私の場合は特に渡仏の時期がわりと早かったので時間との戦いでした。当初の計画のスケジュールには間に合わなかったですけれども(笑)。必要な書類がすべて整ってから約一週間で引越しなど含めすべての事をしなければならなかったので、その間地獄のような日々でしたね(笑)。
石野:資料が全部フランス語で、次にこうしなさい、ああしなさいという指示も全てフランス語でしたので、それを読み解くのが大変でした。また、こちらの秘書に連絡を取るのにタイムラグがあったのが面 倒でした。私の場合は、小松さんが先に行っていたのでいろいろ情報を教えてもらうことができラッキーでした。ありがとうございます(笑)。

Q.日本にいたときのフランスの印象
小松:なんですかねぇ、日本よりはおしゃれな印象?(笑)。実は、あまりよく知らなかったというのが印象ですね。国に関しては、悪い印象もいい印象も特になかったというところが正直なところです。
石野:パスツールに行くということを考えていたので、フランスへいくという発想がなく、あまりそれについて考えたことはなかったです。

Q. フランスに着いてからの印象
小松:気候が想像していたよりもずっと暖かい。あと、本当に英語が通 じないということですね。フランスの印象かどうかわからないですけど、職場の人を含め、みんな話しやすいですね。日本の環境に比べると人の付き合いが近いというか、多いという印象を受けます。
石野:すごくよかったですね。日本にいた時にフランスについて聞いていた話はそんなにいいことばかりではなかったのですが、それとはぜんぜん違いました。例えば、人が冷たいとかよそよそしいなどと言われますが、そういうことは全く感じられず、温かかく、とてもフレンドリーで親切、なんていい国だろうと思いました。

Q. フランスについてからの手続きについて
小松:滞在についてはパスツール研究所の事務局が手伝ってくれたというか、ほとんどやってくれたので、特に困ることはなかったですね。非常にスムースにできたと思います。
石野:いろんな人が助けてくれました。言葉がわからないので何も自分ではできず、いろいろな人がやってくれました。ただ、Egideへ行くときには大変でした。
小松:私は着いたその日に行きました。
石野:あれはつらい過去ですね(笑)。滞在許可書は資料を全部そろえてここの事務に出すと、事務が申請をしてくれます。その後、健康診断を受けに来なさいと言われて受けに行き、次に取りに来なさいと言われて取りに行きました。
小松:普通に申請する場合は、自分で書類を揃えて行くために、まず必要な書類が何かを聞かなければならないのですが、僕たちの場合は、事前に必要な書類は全て送っていたので、とてもスムースにいきましたね。

Q. 言葉について
小松石野:大変です(笑)
小松:フランス語が話せたほうがいいにこしたことはないですね、明らかに。仕事の話は英語でできることが多いと思います、たまにできない場合もありますが(笑)。でも、仕事だけを24時間しているわけにはいかないので、街で生活するにはフランス語が必要です。日本語はもちろん通 じないです。
石野:仕事を進める上でフランス語がわからなくて困ることは、実はそんなにはないですね。
小松:僕は結構ありますよ。
石野:本当?うちはないんですよ。うちは片言の英語はみんなわかるので。でも、やっぱりコミュニケーションがとれないと最終的にはうまくいかなくなるので、言葉はどうにかして習得したいものだと思います。
小松:研究と同じくらい一生懸命やらないと実はいけないかもしれないですね。

Q. 習慣について
石野:何もかもがあまりに違うので、逆に別 に困らない。
小松:最初は違いが大きいので、戸惑うというか、びっくりしますが、でもこちらの習慣とかシステムは実は僕には馴染みやすかったです。日本のスタイルがとても好きな人の場合はわかりませんが、そういうのを受け入れられる人であれば、わりとスムースに行くと思います。すごく受け容れ難い習慣があるとは感じないので、そんなにフランスの習慣に馴染むのに困ることはないです。
石野:変に似ていないので、そのまま覚えてしまうというか感じてしまうので、全然困らないです。逆に日本の習慣を聞かれ、日本の習慣を説明するのが結構面 白いです。

Q. 日本で抱いていたパスツール研究所のイメージ
小松: HIVウィルスを発見したのがパスツール研究所だということは知っていたので、医学の研究所というイメージですね。
石野:私は感染症の研究所だと思っていましたね。他にも分野があることは知りませんでした。

Q. 実際にパスツール研究所で研究を始めて
石野:快適です。外国の研究所は機械が古いと言われたりするのですが、私に関しては全くそういうストレスはないです。
小松:僕も環境はとても快適で施設も充実していると思いますが、意外な機器が共有だったりします。ラボに遠心分離機がないとか…。
石野:うちはある、壊れているけど…。電源入れたり消したりしないとつかない(笑)。
小松:日本の時は、わりと個別のラボで持っていておかしくないような装置が実は結構共通 だったりする。それでも全然困らないですよ。そういう意味では効率的ですかね。
石野:そうですね。
小松:お金も場所も掛からないし。
石野:試薬作ってくれる人もいます。
小松:そうそう。研究のサポート部分がかなりしっかりしていると感じますね。

Q. 研究テーマを教えてください
小松:私が今取り組んでいるのは、DNAが複製される時のされ方が、正常細胞と異常な細胞(がん細胞など)でどう違うかというところを詳しく調べています。それを見分けることができれば遠い将来、間接的に癌の診断や治療に役立てられる、そういう研究の基礎的な部分になるところです。
石野:私は、マラリアの研究をしています。マラリア原虫は人の体の中でまず肝臓に感染し、その後血管内に入り赤血球に感染し、その時に宿主側、つまり人側の免疫がマラリア原虫を駆除しようと頑張って働くのですが、当然マラリアは駆除されないようにいろいろ工夫をしています。その仕組みの一端を明らかにしようということを現在行っています。

Q. 所属ラボを紹介してください
小松:名称はUnite Postulante de Stabilite des Genomes、日本語では、ゲノムの不安定研究ユニットです。ゲノムというのはDNAと同じと考えていただくと簡単です。DNAの複製に不安定な要素が発生すると細胞がおかしくなってしまい、そういう細胞は普通 は死ぬのですが、運が悪いと癌になってしまいます。そういう不安定性が何によって起こるのかというのを研究しているラボです。メンバーは10人位 で、責任者はAaron Bensimon先生です。日本人は私一人だけです。フランス人だけではなく、私のラボはフランス語を母国語なり公用語にしている国の出身の人たちが集まっています。
石野:うちはUnite Postulante de Biologie et Genetique du Paludisme、寄生虫学部門のユニットのひとつで、マラリアの分子生物学遺伝学を研究しています。ボスの名前はRobert Ménardというフランス人です。メンバーは15人位です。日本人は現在私1人ですが、以前1人エンジニアと呼ばれる人いました。ただ、遺伝的には日本人ですが、フランスで育っているので完全にフランス人的な思考を持っている人でした。フランス人以外では現在イギリス人、イタリア人とドイツ人がいます。

Q. 日本とフランスの研究室環境の違いについて
小松
:前にいた日本のラボと今のラボとしか比べられないので一般化はできませんが、 うーん、どこがどう違うかと言われても…。
石野:うちはボスとの関係があまりにフランクなのが一番の違いですね。
小松:うちの前のボスとは、結構何でも話せたので、そういう意味では変わらないです。

Q. パスツール研究所で苦労している点
石野:フランス語?(笑)
小松
:そうですね、研究室内では英語でやらせてもらえますけど、事務的な連絡、掲示は当然フランス語で案内されるのでそれが困ります。講演会の案内がよくされますけど、フランス語で書かれているのでわからなかったり、聞きに行こうとすると『これはフランス語だよ』と言われて断念したことがあります。
石野:半分位はフランス語でのレクチャーですね。

Q.パスツール研究所でいい点
石野:優れた研究者が多く、研究について熱心な人が集まっているのでディスカッションしやすく、共同研究もしやすい。例えば、顕微鏡のプラットフォームがあり、そういう専門のプラットフォームがいくつかあるのでスペシャルなテクニックのいる仕事を導入しやすい。研究する上では、多くの点でリーズナブルでやりやすいと思います。
小松:研究以外の環境もいいと思いますね。食堂の食事が安くて美味しい。これは結構大事だと思います(笑)。

Q. パスツール研究所で働く研究者について
小松:僕の印象はよく働く人が多いということです。集中して働くということもあるのですが、ラテンの人はあまり働かないという既成概念がありましたが、それはそんなに正しくないと思いますね。
石野:いる間はよく働くよね。でも、いない時間も長いけど(笑)。
小松:だらだら遅くまでいないですね。バシッと仕事をしてバシッと終わらせて…。
石野:バシッと遊ぶ。
小松:そう。よく学びよく遊ぶを体現している人が(笑)非常に多くて、我々も見習うべきですね。
石野:カフェバー等でお酒飲みながら情報交換もよくしているようで、そういうのはいいなと思います。
小松:横のつながりが太く、あまり縦割りではないですね。

Q. ルイ・パスツールについて
石野:狂犬病のワクチンのことしか私はあまり知らなかったんですけど、でも研究者としては憧れの感がありますね。
小松:このように後世まで、100年先まで続くような研究をし、自分が研究をしただけではなく、研究所を創り他の多くの人達が研究できる環境を与えたり、またそういう人達を育てたりしてきたこととも素晴らしいことではないでしょうか。

Q. フランスでの生活について(食事)
小松:食べ物は美味しいと思います。でも外食は高いです。日本の食事に比べると塩味が非常に少なく僕は大変気に入っています。素材の味が楽しめるので大好きです。
石野:何を食べても美味しいですし、チーズやバターがとても美味しいので食が進み、若干心配になってきました(笑)。
小松:昼食は食堂で食べることがほとんどですね。時間がないときはサンドイッチを買いますが、朝と夜は自分で料理を作るなり、買ってきたものを食べたりしています。外食を連続すると物価が高いので…。
石野:量も多いしね。
小松:もちろん時々仲間と出掛けたりします。
石野:そうですね。食事で困ることはないですね。スーパーはたくさんあるし、素材もあれば半分調理したものも売っています。ピザも売っているので全然困らないです。
小松:そういう意味では日本と変わらないですね。ただ、日曜日はお店は営業していません。

Q.フランスでの生活について(住居)
小松:住居はパリに関して言うと、値段が高いですね。特に1人〜2人暮らしをするような1部屋、2部屋の物件が高いです。フランス人によると、3部屋の物件を探すほうが2部屋の物件を探すより安いこともあるらしいです。探すのは簡単ではないですね。また、昔からの建物をそのまま使っていることが多いので、見た目にも趣があったり、中に趣があったりすることがありますね(笑)。多分造り的には多少寒さに強い造りになっているようですね。自分の家の話ですけれども。
石野:見つけるのは大変だといわれていますが、私はラッキーにも簡単に見つけることができました。家が見つかると生活をしている実感がわきうれしいですね。落ち着く感じがします。日本と比べて値段が高いこと以外では、全く問題はないですね。

Q.余暇の過ごし方
小松:その辺至る所に見所があります。パリは特にそうだと思います。美術館が好きな人は飽きないと思います。僕はたまに美術館に行きますが、街を歩いているだけで、建物はきれい、公園もきれいだと感じられます。そういう意味では、見所は多いですね。道は汚くて、ゴミはたくさん落ちていますが、でも街の造りは気に入っています。僕は散歩するだけで楽しめますね。
石野:私もぶらぶらすることが多いですね。
小松:そんなにお金を使うわけではないですが、買い物をしたり、街を歩いたりして楽しんでいます。

Q.奨学金制度について
石野:海外行く人にとって、日本からもらえる奨学金の数はそんなに多くないのでとてもありがたいと思います。
小松:確かにそうですね。
石野:数が少ない上に、年齢制限があるものが多いです。ただ期間がもうちょっと長ければ、皆さんアクセスしやすくなるかなあと思います。

Q.今後の抱負
小松:フランスに来るチャンスをいただいたので、研究を続けるのはもちろんですけれども、この奨学金は1年で終わりますが来年以降も何らかの形でとどまることができ、ある程度形になるまで研究を続けたいと思います。また、文化的な交流も進めていくことができればいいなと思います。
石野:やはり、成果がないとこの後にっちもさっちもいかないので、とにかく研究を頑張らなければと思います。それ以外に新しいこと、例えば生活をどう楽しめばいいかとか、異文化をどう楽しんだらいいかということも学べているので、そちらのほうももうちょっとやっていきたいと思います。

Q.日本パスツール協会に求めること
小松:とてもよくしていただいていますので(笑)、今特別 何かを改善してほしいということは思い浮かばないですね。さっき、 石野さんがおっしゃっていましたが、近い将来は無理かもしれないけど、奨学金制度が1年間ではなく、2年とか3年になっていくといいなと思います。そうなると、応募する側も応募しやすくなると思います。
石野:特に問題もなければ、要求もないです。3ヶ月毎に奨学金をいただけるのはとてもありがたいですね。家を借りるときの頭金になりました。
小松:ちょっとお金がやばいかもという時にまとめて送金があるのはありがたいです。

Q.後輩に向けて一言
小松:一言言える立場かどうかわからないですが(笑)、余裕があれば是非応募する段階からフランス語を勉強したほうがいいです。こちらはいい環境だと思いますのであまり迷わずに、もし興味があるラボがパスツール研究所にあれば積極的にコンタクトを取るなりして応募すると、将来的にもいいのではないかと思います。
石野:パスツールだろうがフランスだろうが何でもいいので、一度は外に出たほうがいいと思います。

小松さん、 石野さん、ご協力ありがとうございました。今後のご活躍を期待しております。